5-2-2. Society5.0

Society5.0は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)です。狩猟社会(Society1.0)、農耕社会(Society2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました。

Society5.0では、IoT(Internet of Things)ですべての人とモノがつながり、様々な知識や情報を共有することによって、これまでにない新たな価値を生み出すとともに、社会が抱える課題を解決し、困難を克服できます。また、人工知能(AI)、ロボット、自動走行車などの利用によって、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題も解決できるでしょう。こうした社会の変革(イノベーション)が進むことによって、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合う社会、一人ひとりが快適で活躍できる社会が生まれることが期待されます。

これまでの情報社会(Society4.0)では、人がサイバー空間にあるクラウドサービスにアクセスすることで、情報やデータを入手し、分析を行ってきました。Society5.0では、フィジカル空間のセンサーから膨大な情報がサイバー空間に集積されます。サイバー空間では、この集積されたデータ(ビッグデータ)を人工知能(AI)が解析し、その結果をフィジカル空間の人間に様々な形で、フィードバックしていきます。今までの情報社会では、人間が情報を解析することで、価値が生まれましたが、Society5.0では、AIが解析した膨大なビッグデータの結果がロボットなどを通して、人間にフィードバックされることで、これまでに実現しなかった新たな価値が産業や社会にもたらされます。[13]

図26. Society4.0とSociety5.0の比較
(出典)内閣府.”Society5.0”. https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0,(2023-08-03).

社会の変化に対するセキュリティ上の脅威

Society5.0におけるサイバー空間の急激な拡大は、サイバー攻撃の対象が増えることを示しています。サイバー空間とフィジカル空間の相互作用により、サイバー攻撃がフィジカル空間にも影響を及ぼす可能性が高まります。たとえば、医療機器やインフラシステムなどがサイバー攻撃によって操作されたり、停止したりすると、人命や社会生活に重大な影響を及ぼす恐れがあります。

Society 5.0では、多様な人々がサービスの効果を享受できる包摂的な社会を目指していますが、そのためにはサービスの利用可能性や継続性を確保する必要があります。しかし、サイバー攻撃によってサービスが利用できなくなったり、中断されたりすると、包摂的な社会の実現に支障をきたす可能性があります。また、IoTデバイスやセンサーが収集したデータをサイバー空間で改ざんし、偽情報を拡散するといったフィジカル空間とサイバー空間の情報転送への脅威も考えられます。さらに、IoTやAIなどの技術を活用することで、大量のデータが生成されますが、そのデータは個人情報や企業情報などの重要な情報を含む場合が多く、その漏えいや改ざんによってプライバシーや知的財産権などが侵害される危険性が高まります。

また、Society5.0においては、IoTから得られる大量データの受け渡しなど、サイバー空間とフィジカル空間の融合によって新たな処理が発生します。その新たな処理がサイバー攻撃の対象となる可能性を認識すべきです。Society5.0においては、サプライチェーンも変化します。サイバー空間とフィジカル空間が融合されることで、サプライチェーンを構成する企業同士の関係が複雑に繋がります。その結果、サイバー攻撃の影響範囲がこれまで以上に拡大することが予測されます。

Society5.0における社会の変化

社会の変化に対する
セキュリティ上の脅威

大量データの流通・連携

データの性質に応じた適切な管理の重要性が増大

フィジカル空間と
サイバー空間の融合

  • サイバー空間からの攻撃がフィジカル空間まで到達
  • フィジカル空間から侵入してサイバー空間へ攻撃を仕掛けるケース
  • フィジカル空間とサイバー空間の間における情報の転換作業への介入

複雑に繋がる
サプライチェーン

サイバー攻撃による影響範囲が拡大

(出典)経済産業省「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策 フレームワークVer1.0」を基に作成

Society5.0の進展に伴い、サイバーセキュリティ対策の重要性が増し、組織や個人がより綿密な対策を講じる必要があります。また、サプライチェーン全体でサイバーセキュリティ対策を実施し、企業間で意識を共有することも重要です。

[13]:内閣府.”Society5.0”. https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0,(2023-08-03).